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ラジオ電波越しのメッセージ

by Takapi

僕の前職の先輩にあたるKさんは今、父親の跡を継ぎ、清澄白河で印刷業を営んでいる。
印刷の楽しさと奥深さを知ってもらいたいという想いから工場の前の通りで手作りの『朱印帳』や『和本』を販売している。

工場前に露店のように朱印帳を売っている珍しさが話題になり、各方面のメディアで取り上げられ始めている。
高田純二の番組や有吉の番組などのテレビに始まり、OZマガジンなどの雑誌に加えラジオにだって出演しているのだ。

そう、今日はついにラジオに初出演を果たした日だった。
TBSラジオの「毒蝮三太夫のミュージックプレゼント」という番組だ。

前日彼から「とにかく聞くように」とLINEが来たので、radikoのアプリを立ち上げては開始予定の10分前くらいからラジオをかけていた。

久しぶりにラジオを聞けばそれはどこか懐かしく、それでいてテレビとは違う親密さもあってつい耳を傾けてしまう。
DJの小気味いいトークを楽しみながら彼の登場を待つ。

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ここでKさんについて少し説明をしなくてはならない。

彼は僕の前職(広告代理店)の先輩にあたる。年齢は僕の3つ上。
僕が入社したときに初めて面倒を見てくれた先輩であり、初めて社会人の厳しさと楽しさを教えてくれた人でもある。

Kさんを一言で言うなら、「強情な泣き虫」だ。

大学時代アメフトで培ったその体育会系のノリのまま、とにかく楽しくすることと真剣にやることを徹底していた人だった。そしてそのノリを完全に後輩に押し付ける人だった。

それでいながら打たれ弱く、仕事で失敗して上長に怒られれば人目もはばからず泣くし、後輩の結婚式に出席するものなら親族より先に涙を流すような男である。

そう、Kさんはとにかくわかりやすい男であり、この薄情な僕に尊敬を抱かせる数少ない年上の人でもあるのだ。

ひとつ忘れられない思い出がある。
それは社会人になって1ヶ月くらいが経ち、社会の厳しさと上長の理不尽さに少しの嫌気がさし始めていた時、それでもそんなことはおくびにも出さずに平静を保っていた(いると思っていいた)時期だった。

いつも通り残業に追われ、PCに向かって慣れない見積もりを作っている僕の横にすっと立ち、Kさんは「おう。飲みに行くぞ」と僕の予定も聞かずに飲みに連れていった。

それでも誘ってもらって少なからず嬉しかった。

彼のキャラクターからいつも飲みに行くときは団体様になっていたから、今日のようにサシで誘ってくれることがなんだか嬉しかったのだ。

乾杯し、いつも通りの楽しく笑わせる彼の話を肴に酒を進め、酔いが回り始めた頃、ポツリ小さな声で呟くように「そろそろ疲れが出てきてんだろうなと思ってな」と、誘ってくれた理由を明かしてくれた彼を見た瞬間、目の前が潤んでくるのがわかった。
そんな気持ちを察せられぬよう、誤魔化すように、僕はビールをあおった。
同時に、肝心なところで声が小さくなる彼の詰めの甘さが余計に好きになった。

その時しっかりとお礼を言えたかは憶えてないけれど、そんな彼との時間が、大袈裟に言えば僕の社会人人生の基盤となっている。

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さてラジオに戻る。
毒蝮三太夫が来るということもあり工場近くの年輩の方もたくさん来ていたのだろう。
ラジオ越しの賑やかさの中にしがれた声たちが混ざっていることでなんとなくわかる。

毒蝮さんの毒舌と、その中で唯一若い声のKさんのやりとりが微笑ましくてついラジオの向こう側で笑っている自分がいる。

5分程度話した後、スタジオから「それではそろそろリクエスト」を、という声がかかる。どうやらKさんがリクエストした曲を流すことになっているらしい。

スタジオのDJが柔らかい声で曲名を告げる。
「それでは聞いてください。ウルフルズで『明日があるさ』」。

『明日があるさ』がアナウンスされるとすかさず、毒蝮が「良い曲だよね。明日がある〜。なんでこれを選んだの?」と問いかける。

「前職の後輩が岩手に帰ることになったんですよね。代理店から公務員になるんですけど。そいつに送りたくて。」

その後輩はH君と言って、H君は僕の1つ年下の後輩でもある。今年7月から地元の岩手に帰り、公務員になったばかり。

僕は連絡をマメに取る方ではないからその事実しか分からなかったけど、たぶんKさんはいつものKさんらしく、まめに連絡をとっては不安や期待を聞いて慰め励ましていたんだろう。

明日があるさ明日がある
若い僕には夢がある
いつかきっと いつかきっと
わかってくれるだろう
明日がある 明日がある 明日があるさ
ウルフルズ『明日があるさ』

分かりやすいメッセージだ。むしろ分かりやすすぎる。
「ベタだなぁ」と苦笑いをしながらも鼻の奥がツンとするのを感じた。

毒蝮が「何か彼にメッセージあるかい?」
一呼吸あけてKさんは短いメッセージを送った。
「…H、頑張れよ。」
「声が小さい!」と毒蝮が茶化す。
そのやりとりを聞いた瞬間、いつかの思い出がフラッシュバックして「懐かしい」と思うより先に涙が流れていた。

一呼吸あけて彼は、はっきりしたよく通る声でしめた。
「H、頑張れよ!!」



Takapi
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