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小さな経済を回すということ~たまプラーザの眼鏡店「LOCAL」について~

by Takapi

たまプラーザ駅から徒歩5分程度のところに眼鏡のお店「LOCAL」はある。

ぬくもりがあり、それでいて結構重たい木の扉を開けると「こんにちは」と朗らかな店主の声が届く。
「こんにちは」とこちらも返す。

お店には僕ら一組だけ。

一組だけだと少し気まずい感じになったりするのだけれど、店内のウッディ―な雰囲気がそうさせるのか、ゆったりとした気分になれる。

店内の眼鏡はどれも素敵で、手にとっては「良い」とつぶやきながら、試しては外すを繰り返していた。

そんなことを繰り返していたら、店主の方から声をかけてくれた。
首をかしげるパートナー(おそらく「似合ってない」と言いたい)の様子を見てたのだろう「まぁ、そもそも男性と女性の眼鏡の好みは違いますから。女性はかっこよくなってほしくて、男性は野暮ったくなりたいんですよ

いきなり飛び出た至言に、なるほどと頷いたところに

「だからまぁ。とりあえず好きなのを選んでみた方がいいです。3日もすれば慣れてくれますよ(笑)」
「あいにく、今日は暇みたいなんで、ゆっくり見ていってやってください。いい天気だからもう少し入ると思ったんだけどなぁ。」

そこからどんな眼鏡が今人気なのかという流行の話から、アメリカとヨーロッパの眼鏡文化の違いまで丁寧に説明してくれた。
10分位経った頃には3つ位に絞って悩み始めていた。

「コーヒー好きですか?」
「大好きです」
「とりあえず飲みませんか」

店主の誘いで店内のカウンターに腰をかけてアイスコーヒーをいただく。

まず、びっくりしたけど、ここまで美味しいアイスコーヒーを出すカフェ自体あまりないんじゃないかと思う程、出されたコーヒーは美味しかった。

コーヒーを飲みながら、店の内装を手掛けたMOBLEY WORKS(幡ヶ谷のpuddlers coffeeの内装も担当している!)のこととか、店主自身が元々丸の内や渋谷の眼鏡屋さんで働いていたこと、そこから一人で「LOCAL」を立ち上げた経緯とか、「ことりっぷ」が好きであることとか(ありがとうございます!)、他メディアさんのここには書けない裏話とか色々教えてもらった。

ふと時計を見たらコーヒーを飲み始めてからすでに30分ほど経っていた。

「あ。選ばないと」

急ぎ立ち上がり、先ほど3つまで絞った眼鏡を再度試す。
あれほど悩んでいたのがなんだったのか、今度はスッキリと決めることができた。

再びカウンターに付き客用の名簿に自分の名前を書き、渡したところで「私も身分を」と言いながら「矢田大輔」と書かれた名刺を僕に差し出してくれた。

「さて、“平山”さん、視力の検査をしましょう。」矢田さんは、そう言って個室に促してくれた。

店員さんと客は言ってしまえば匿名の関係であり、その希薄な匿名性の関係を「代金」でもって帳消しにしている。
だが名前を知り、呼ばれることで、その冷たい関係が薄れ、代わりに信頼と愛着が湧き上がってくるのだ。当たり前だけどそんな力を「名前」は持っていることに気付かされた。

小さい経済について

「そんなに稼げなくて良いんですよね。兎に角食べていけるだけのお金があれば」
「だからメディアに出るのも断っているんです。みなさんの相手が出来なくなるから」

視力検査が終わり、2杯目のコーヒーを飲みながら矢田さんははにかみながらそう話してくれた。
(結局コーヒーは2杯もいただいた)

コーヒー2杯目を飲んでいる時、今日僕がかけていた眼鏡を「ちょっといいですか?」と矢田さんは断って僕の顔から外し、「STAFF」と書かれた個室に消えていった。

5分ほど個室から機械の音がしたところで矢田さんは戻ってきて、今度は丁寧にガラスを拭き始めた。
「僕、眼鏡オタクなんですよ。根っから。だからちょっと気になることがあると抑えられないんですよね(笑)」

掃除も碌にしていない僕の眼鏡を見ていられなかったのだろう。丹念に綺麗にして返してくれた。
このことは、その場にいた時よりも家に帰ってからじんわりと染み渡ってきていて、今もこのエピソードを打ちながら温かい気持ちになっている自分がいる。

談笑しているところに突如エグ○イル風の男性が入ってきて、サングラスを2つ持ってきた。
「これ。頼むわ」とだけ言い放って颯爽とお店を去っていった。

茫然としていた僕を見て、矢田さんは笑いながら
「向かいのバーの店主なんですよ。こうしてたまにサングラスのメンテナンスをしているんです」
「この通りは70代以上か30代の人間に分かれていて、というかその2つの世代だけなんです。元気なんですよね

その70と30の間の世代とはつまり、団塊世代からバブル世代という「大企業」が社会のすべてだった時代だ。
この世代とその上と下を分けるもの、それは押して図るべし、ということだろう。

通りがあり、愛着をもって居続けたいと思う人がそこで商売を始める。
大きく稼ぐことよりもそこに来る人を大切に、丁寧に迎え入れること。
そこで生まれるコミュニケーションがまた、新しい人を遠くから呼んでくる。
それらは全て「個人」から始まるということ。


それが小さい経済。

「こうして1対1で話しているのが楽しいじゃないですか」
「話すことで僕もお客さんに責任が湧いてくるんですよ」
「だから変なものは薦めたくない。勿論僕も人ですからお客さんは選びます。話を一緒にしてくれる人でないと、やはり後でうまくいかないことが多いんですよ

会話から生まれる信頼関係と“小さな”経済を知った矢田さんならではの清々しくも重たい言葉だった。
これは接客業だけではなくて、僕らビジネスをやっている人間にも当てはまること。ものすごく大切なことを教えてくれた気がした。

最後に矢田さんはいたずらっぽく気を付けた方が良い接客について教えてくれた。
今回はそんな矢田さんの言葉でしめたいと思う。

「服を選んで手に取るでしょ。その時に“色違いもありますよ”と話しかけてくる店員さんは“売上”のことしか頭にないから、その人からは100%いいものは紹介されませんよ」

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